2007年10月27日 中村京蔵舞踊の夕べ 「海人二題
 
※平成19年度第62回文化庁芸術祭舞踊部門の新人賞を受賞させていただきました。
 
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 「海人の珠取伝説」は賛州(香川県)志度寺に伝わる「志度寺縁起」をその原処とし、爾来、幸若舞・能楽・浄瑠璃・歌舞伎・更には地歌等、様々な芸能に取り入れられて来ました。龍神に奪われた宝珠を取り戻す為、志度之浦へ赴いた藤原不比等は土地の海人と契り、一子をもうけます。その子を藤原家の後継に定めるという約束と引き替えに、宝珠奪還の為海人は海中深く飛び込みます。我が子の為に一命を賭ける悲しくも烈しい母の姿は、時代を超えて我々に訴え掛けてくるものがあります。

 今回は先代雀右衛門以来、京屋とはご縁の深い楳茂都流の「珠取海女」を学び、また、藤間勘十郎師のお力添えを得て、謡曲と竹本を地に、歌舞伎と狂言のコラボレーションとしての「海人」を再創造致しました。

 さらに、賛助出演の高澤祐介氏はじめ、今回も諸先生・関係諸氏のお力添えを賜りましたことは、望外の喜びでした。

【地歌「珠取海女」】
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晴れぬ心や黒髪の
 乱れて今朝はものをこそ
女命捨てどころ
波の海底に飛び入れば
竜宮に中へ飛び入れば
 右左へぱっとぞ退いたりける
珠は知らずあま人は
 海上に浮かび出でにけり
下げ下地(さげしたじ)という鬘です。主に武家女房(合邦の玉手や盛綱陣屋の篝火など)に用います。京屋結びの定紋入りの銀の平打ちを差しています。

【謡曲・竹本「志度之浦別珠取」】
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「いかに是なる女、おことは此の浦の海女にてあるか」
面を向うに背かずと書いて
 面向不背の珠と申し候
一つの利剣を抜きもって
 かの海底に飛び入れば
海上に浮かび出るくだりお囃子のみで表現
五體もつづかず朱になりたり
母よと呼べば息子よと
 言う声さえも夕凪の

【他
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藤間勘祖師には、厳しくも親身なるご指導をいただきました
楳茂都梅咲師(写真中央)と梅咲弥師(写真右)にもご懇切なるご指導をいただきました
思いも寄らない季節はずれの台風襲来にもかかわらず、大勢の皆様がご来場下さいました。改めてお礼申し上げます。

【演目】
一、 地歌 「珠 取 海 女」
監修 楳茂都梅咲
立方 中村京蔵
地歌・三弦 富田清邦
囃子 田中傳次郎社中
二、謡曲・竹本 「志度之浦別珠取」−しどのうらわかれのたまとり−
脚色・演出・作曲 苫舟
振付 藤間勘十郎
作調 田中傳次郎
照明 北寄崎嵩
海人の亡霊 中村京蔵
房前の大臣 高澤祐介
(狂言 和泉流)
地謡 馬野正基
浅見慈一
竹本 浄瑠璃 竹本葵太夫
   三味線 鶴澤慎治
   同 豊澤勝二郎
囃子 田中傳次郎社中
【解説】
《地歌「珠取海女」》

 能「海人」を題材にした本行物の大曲で、全曲三下がり。作詞作曲者不明。

 後段、「一つの利剣を抜き持って」以下は謡曲の「玉之段」を丸取りしているが、前段の道行風の詞章は、岡田万里子氏の考察(演劇界別冊・日本舞踊曲集成〜上方舞編)によれば、「元禄歌舞伎『面向不背玉』に藤原京から四国への鎌足の道行風所作がみられ、元禄17年刊『落葉集』にも別の鎌足道行がある。また、同書の『奈良名所尽』に歌詞の一部共通する歌謡が掲載されているなど、いずれにしても元禄期の芝居歌を取り入れたものと推定できる」との見解がある。

 振付は上方舞各流にあり、詞章の抜き差し、異同も様々である。楳茂都流では、ほぼ全曲舞う。以前は舞台も海辺の道具を飾り、海女の扮装で舞ったというが、現行では、鬘は下げ下地、衣裳も着付けは綸子地などの裾模様を引き着にし、帯は織物を文庫に結び、精好か紗の掛けを腰巻にする御殿女中風の拵えで舞うのが通例となっている。今回もそれに倣う。


《謡曲・竹本「志度之浦別珠取」》

 宗家藤間流には、故観世榮夫作、十世竹澤弥七作曲、六世藤間勘十郎(二世勘祖)振付による「海士」という名作がある。六世勘十郎師の依頼により、観世榮夫師が、能の「海士」より母子の別れに焦点を絞って脚色し、弥七師の名作曲、六世宗家の名振付・名演と相俟って好評を博し、爾来、六世歌右衛門、師雀右衛門、現勘祖師へと受け継がれ、宗家藤間流奥許しの大切な作品となっている。

 私は、幾度となくこの名作に接して感動し、無謀にも、恐る恐る上演のお許しを願い出たところ、現八世勘十郎師が「では、私が脚色し直しましょう」とおっしゃって、能舞台という空間、狂言師と歌舞伎俳優とのコラボレーション、謡と竹本との掛け合い、照明の演出効果等々、私が提示する条件を全て飲み込んで、再創造して下さったのが本曲である。

 私が描きたいのはただ一点、国家の秩序維持の為に翻弄され、犠牲になった母と息子の、限りなく哀れで悲しい再会と別れの一瞬間である。
- 「海人二題」パンフレットより抜粋 -


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