日本・イスラエル外交関係樹立60周年記念事業
歌舞伎レクチャー・デモンストレーション公演
■主催
国際交流基金

■製作
松竹株式会社

■日程
2012年8月26日(日)出国〜9月9日(日)帰国

【1.エルサレム公演】
  ■日程
  8月30日(木)・31日(金)
  ■会場
  イスラエル博物館オディトリアム
  ■演目
  1、レクチャー 歌舞伎の歴史
   解説 尾上松五郎
  2、レクチャー女方の基本
   解説 中村京蔵
  3、レクチャー歌舞伎の音楽と効果音
   解説 尾上松五郎
  4、「鷺娘」 長唄囃子連中
   鷺の精 中村京蔵

【2.テルアビブ公演】
  ■日程
  9月6日(木)・7日(金)
  ■会場
  スザンヌ・デラール・センター
  ■演目
  1、レクチャー 歌舞伎の歴史
   解説 尾上松五郎
  2、「鷺娘」 長唄囃子連中
   鷺の精 中村京蔵
  3、レクチャー立役の扮装−獅子の出来るまで−
   解説 尾上松五郎
  4、「石橋」長唄囃子連中
   雌獅子の精  中村京 蔵
   雄獅子の精  尾上松五郎
「鷺娘」 鷺の精
「石橋」 雌獅子


エルサレム公演
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8月26日 21:55

直行便がないので、エールフランス277便でパリ経由でイスラエルに向かう。
日曜日の夜立ちだから、成田空港も閑散としており、手続き等まことにスムーズ。
この度は、日本とイスラエルの外交樹立60周年を記念して、国際交流基金主催、松竹株式会社製作により実施される。イスラエルでは初めての歌舞伎舞踊公演であり、実現に到ったことは望外の喜びである。ご尽力くださった関係各位各方面に心から感謝の気持ちを伝えたい。
私は、これまで15年以前より、交流基金さんの派遣要請により、東南アジア4ケ国6都市、オーストラリア4都市、ニュージーランド3都市、欧州4ケ国7都市、インドネシア2都市、台湾1都市、米国西海岸5都市、メキシコ2都市、中米2ケ国3都市等々を巡回してきた。そのなかで試行錯誤を重ね、現在のプログラムに定着したのは台湾公演あたりだと思う。これがベストだとは決して考えないが、私としては、レクチャーは極力シンプルに歌舞伎のエッセンスを伝え、舞踊演目は海外向けにアレンジせず、日本で上演するまま(たとえば鷺娘でも豊後道成寺でも師の演ずる通り)を貫いて来たつもりである。
今回もこれまでのプログラムを踏襲するが、しかし、ユダヤ教、イスラム教、キリスト教など宗教の聖地であり、また演劇シーン、ダンスシーンが盛んな国柄と聞き及ぶ中東イスラエルでの初めての公演である。どんな反響、反応があるか全くの未知数で、私としてはいつも以上に戦々恐々である。
ともあれ、パリまでの13時間のフライトも睡眠バッチリでスタミナ十分!(いつも機内ではよく眠れないのに、今回は熟睡出来た!夜立ちのせいか?)
パリでの6時間ものトランジットもものかわ!いざ、イスラエルで、我は傾かん!

8月27日18:00過ぎ

無事、エルサレムに到着。成田からパリまで13時間、乗り換え待ち時間が6時間、パリからテルアビブまでが5時間、テルアビブからエルサレムまでがバス移動で1時間。計26時間の長旅だったが、それほどの疲労感はない。街の建造物は、景観保持の為全て白いイスラエル石で建てることを義務付けられている。世界三大唯一神宗教(ユダヤ教、キリスト教、イスラム教)の聖地にふさわしい美しさだ。 一行全員でホテル近くの繁華街に出て夕食。イスラエル産のワインは質が高くて美味しい!赤も白も堪能した。
帰りがけにマーケットに寄って飲料水を購入。イスラエルの上水道は飲料に適していて大丈夫らしいが、水では散々苦い経験があるので用心に越したことはない。物価は高いと聞いていたが、エビアン750ミリリットルが日本円で300円とはビックリ!

8月29日 19:00 初日通り舞台稽古

公演会場は、世界屈指の巨大博物館、国立イスラエル博物館内のオーディトリウム。いわゆる講演会用の施設で200人強収容。
当博物館では、収蔵品の文調などの役者絵、浮世絵の展示と共に歌舞伎の衣裳展も併設。三越提供の衣裳は、我々が到着した折はちょうど展示替えで、段鹿子と浅黄地枝垂れ桜模様と朱色地雪輪と梅模様の振袖三点。いづれも古い物(多分戦前から戦後に掛けて)で色も焼けているが、今では見掛けない模様や地紋など大変貴重な衣裳の数々である。ほかにも古代遺物など博物館の貴重なコレクションを見学したいところだが、スタッフや通訳さんとの打ち合わせ、公演準備でそれどころではない。
幸い舞台は木質だから固いが問題ない。ただ180度近く客席があるので、踊る時は多少意識せねばならぬか?狭いので長唄お囃子連中は上手に並んでもらい、幕がないので、暗転、置唄のあと合方で下手の階段から歩いて登場に変更。鷺娘は暗転板付か迫り上がりかシャモジの押し出しでスーッと出たいところで、のこのこ歩いて出るのは気が悪いが仕方ない。
別便の鳥羽屋文五郎師の到着を待って、定時に舞台稽古開始。
通訳さんが慣れないので、多少齟齬があるが、回を重ねれば大丈夫でせう。
初参加の尾上松五郎さんは大変真面目で几帳面なお人柄で、私も全面的信頼を置いている(下戸なのが玉に疵ず 笑い)こちらもレクチャーも後見も慣れれば大丈夫。
鷺娘は照明変化やきっかけが多いので、現地スタッフは大変で気の毒だが、頑張ってもらうしかない。
舞台監督の井口さんの陣頭指揮のおかげで20:30に終了。90分掛かったが、本番は予定通り75分で上がるでせう。
ホテルから歩いて数分のショッピングモール内のイタリアンレストランで美味しいワインとピザで労を癒して、早めに就寝。

8月30日20:00 エルサレム公演初日

200席満席で定刻に開幕。これまでの経験で、定刻に開くのはめずらしい。
緊張気味の松五郎さんは、しかし言葉がハッキリとし滑舌がよく、姿勢がよくて行儀がいい。松五郎さんが「世界遺産に登録された歌舞伎が、世界遺産のエルサレムの地で公演されることを誇りに思います」と挨拶すると大きな拍手。
女方のレクチャーは、毎回どんな反応があるか読めないが、年配者が多い客席だが 反応がよくてやりやすい。音楽の解説で、大太鼓の雪音を松五郎さんが何の音でせう?と振ると、女性の声で雪と名解答!あとで聞くと日本語を勉強している女子学生とのこと。
鷺娘は、引き抜きの度に拍手があるので演りやすいが、雪が上手く降らないので空調を切られたから暑いのなんの!客席も暑いので一斉に扇いでいるから、それも目に入って余計に暑い!汗でグジャグジャになったがそれでも無事に幕となってカーテンコール。
客席から沢山の拍手を貰って、初のイスラエル公演初日はまず成功。松竹の中野さんから「95パーセントのお客様から、ありがとうって云われましたよ!と聞いて、私も松五郎さんもホッと一安心。
現地スタッフの頑張りにも感謝!感謝!
終演後、ビールとワインで乾杯!

8月31日 14:00 エルサレム公演二日目

金曜日日没から土曜日日没までは安息日なので、今日の公演はマチネーとなる。客席は年配者に混じって未就学児童の姿も。若い人や学生が少ないのが残念だが、テルアビブ公演に期待しやう。
大太鼓の雪音は、ヘブライ語で雪と今日も名解答!
鷺娘は、雪の降る時だけ空調を切ることになり、ヤレヤレ。
客席は昨日より大人しいが、熱心に集中してご覧頂いている空気が伝わり、最前列の児童達も食い入るやうに見詰めている。
二日目も無事に幕。
招聘下さった博物館側も大変喜んで頂いて、肩の荷が下りた。
全員でエルサレム公演の打ち上げ。
酒豪揃いだから、ワインのボトルが空くわ!空くわ!

9月1日 9:00 終日OFF

私も松五郎さんも公演準備と打ち合わせに追われて、何処へも見学に行けなかったが、今日やっとOFFになり、旧市街に足を踏み入れることが出来た。
安息日だからさぞかし閑散としているとおもいきや、とんでもない!門前町はいずこも同じで朝から大賑わい!石畳の狭い参道という参道、路地という路地は土産物屋、飲食店、日用品店、青果物店、生鮮食料品店、香辛料専門店がひしめき、色々な匂いがする雑踏はさながら迷宮の如く、その中を観光客やら地元の様々な人々が行き交う。面白いのは喫茶の出前のお兄さんで、銀の丸盆に鎖を吊り下げた岡持ちにコーヒーやジュースを載せて売り歩く。
さて、なにはともあれ歎きの壁に直行。今日は安息日だから写真撮影は禁止。
まさか生涯訪れるとは予想だにしなかった歎きの壁!荘厳、壮大で圧倒される。しかし、我々のやうな縁なく衆生はこのやうな場所にはむやみに立ち入らないほうがいい。それほど厳粛なものだ。
さて次は、イエスキリストが十字架を背負って歩いた悲しみの道、ヴィア・ドロローザを辿る。方向音痴の私と松五郎さんは、迷宮の旧市街をガイドブックを頼りにやっと第一留地点エル・オマリヤ・スクールにたどり着く。ここは、イエスが死刑判決を受けた要塞があった場所。第二留はイエスが鞭打ちの刑にあった教会。祭壇上のドームの茨の冠を模した装飾が美しい。さて、それ以降、第三、第四、五と繁華な街中を辿る。聖顔布ゆかりベロニカ教会、生母マリアの教会等々。イエスが十字架の重みに耐え兼ねて何度も躓き倒れた場所にはそれぞれ記念碑が建てられ、趣き深い。
さて、いよいよゴルゴダの丘の上に建つ聖墳墓教会。第十から第十四留地点は全てこの教会内にある。イエスが処刑されたゴルゴダの丘に来たのだとあらためて実感。感慨深い。敬謙なキリスト教信者が引きも切らない。信者ではない我々は、教会内を一巡してそっとこの場を辞した。
もう一生涯訪れることはないであろう宗教の一大聖地を垣間見られたことは貴重な経験だった。
さて、昼食抜きで6時間ほど!も聖地を巡訪した我々は、なにやらアジアンテイストが恋しくなり、文五郎さんお勧めのエルサレムで唯一の中華飯店をやっとの思いで捜し当て、ホッと一息。本日はこれにて幕。

9月2日 8:30

今日はマサダ要塞と死海を視察。
ユダヤ民族誇りの象徴マサダ要塞。急峻な岩山にそびえ立つ離宮と要塞の遺跡はユダヤ民族の苦闘と受難とと誇りをものがたり圧倒される。
消滅の危機が叫ばれる死海の、目に痛いほど染み入る海水!で身も心も癒して、明日からのテルアビブ公演に備える。

【イスラエル公演】
イスラエル博物館オディトリアム会場下見
博物館入口にて
舞台仕込中
音響・照明スタッフと舞監の井口さん達
衣裳の久保さんと床山の宇田川君
歌舞伎の歴史のレクチャー
松五郎さんと通訳の島崎さん
客席の反応
歌舞伎音楽のレクチャー
松五郎さん、三味線と鳴物の皆さん
女形のレクチャー
鷺娘
鷺娘の幕切れ
当博物館での歌舞伎衣裳展のうち、ちりめん朱色地に雪輪と梅模様の振袖
師の着ていた衣裳に65年振りに再会
当博物館所蔵の錦絵
磯日湖龍斎画「雪中美人図」
【休日】
エルサレムの新市街
旧市街の香辛料専門店
イエスが鞭打ちの刑にあった教会の内部祭壇前
迷宮の旧市街
イエスが倒れた第10留地点には十字架が立て掛けてあった
その十字架を知盛よろしく担ぎ上げる罰当りな松五郎さん!
ゴルゴダの丘の上に立つ聖墳墓教会
その教会内部
海抜0m地点
急峻なマサダ要塞
要塞頂上
死海 確かに浮いています!
死海 みんなで泥パック!
泥パックその2 誰???
地中海にて
地中海に沈む夕日が美しい
地中海のシーフードレストランで
同じくシーフードレストラン
基金の阿部さんと
翌朝、地中海に白い鳥が居ました。鷺!なわけないですよね?
同じく白い鳥
【ワークショップ】
皆さん優秀でした!
 
 
 
 

テルアビブ公演

9月3日 10:00 テルアビブに移動

今日は15:00より地元の演劇学校でワークショップ。受講者は演劇学校で教職を目指す20代後半の方々。女方や立役の基本のあと、立ち回りを学んでもらったが、呑み込みが早く、質問も鋭くまことに優秀。
余談だが、立ち回りの見本は、文五郎さん、三味線の正園さん、鳴り物の太左禄さんにお願いして「人の心」を使った唄立ち回りにして頂く。。私はこの「人の心」(枕獅子、鏡獅子))の唄立ち回りを一度演ってみたかったのだ!それと云うのも、むかし、岡本町の旦那が田舎源氏のだんまりで「人の心」を使われたのを拝見していいなぁと思い、師も高麗屋丈と三五大切での立ち回りが「人の心」だったから。念願叶った次第!(個人的趣味ですみません)勿論、受講生は最初の一手二手。
さて今宵の夕食は、地中海に沈む夕日を眺めながらのシーフードレストラン。この眺望ももう生涯目の当たりにすることはないと思うほどの素晴らしさ!
2日間にわたるワークショップの疲れも吹っ飛んだ!

9月4日 11:00 15:00

今日は俳優学校での午前午後二回のワークショップ。2時間ずつでは身が持たないので90分ずつにしてもらう。2時間でも物足りないとの嬉しい声も聞こえるが、公演の合間のワークショップなので、何卒ご勘弁のほどを。
受講者は俳優を志す当校の卒業生と現役の生徒。イスラエルは兵役が男女共あるから、皆、20代半ばから後半である。受講生は午後の部のほうが反応がいい。私自身も午前中はテンション上がらず。
むろん、興味津々の受講生は6日7日の公演に足を運ぶと固く!約束してくれる。二日間のワークショップも無事終了。
夜は、佐藤日本国大使閣下のお招きによる夕食会。
ご夫人共々、美味しい和食、日本酒、ワインで大歓迎してくださる。
大使ご夫妻のお心尽くしのおもてなしに深く感謝申し上げます。

9月5日19:00 初日通り舞台稽古

エルサレムとは違い、こちらは15分プラスの90分枠を頂いたので、1、歌舞伎の歴史 2、鷺娘 3、立役の扮装(獅子の出来るまで)4、石橋といふプログラム。全体の流れをよくする為に中野氏井口氏と協議の末、冒頭の歴史のレクチャーは幕前、引き続き鷺娘の解説とし、すぐに鷺娘の開幕とした。また、鷺娘のあとは道具替えと松五郎さんの支度時間を稼がねばならないので、幕前で私が鷺娘の扮装のまま挨拶と女方のレクチャーを少しだけして繋ぐこととした。石橋は、大道具をきちんと飾れたので、藤間宗家とご相談の上、終盤の毛振りは松五郎さんが橋の上、私が下で、幕切れも二人とも橋の上で決まることに変更した。照明の手直しがあったものの、全体で95分で仕上がったので、予定通り上々の出来上がり。劇場スタッフの協力に感謝!感謝!
稽古終了後、チャイナコートといふ中華料理店で疲れを癒す。炒飯、焼売が美味しい。松五郎さんはくたびれ果てて不参加。 テルアビブ版は松五郎さんは出ずっぱりとなるので負担は大きい。鷺娘の後見も私の要求が日増しに高くなるので目を白黒させている。ガンバレ松五郎!

9月5日13:00 劇場入り

ここスザンヌ・デレール・センター内の劇場は、386人収容のこじんまりした、雰囲気のある劇場で、歌舞伎舞踊にはモッテコイの空間である。
当劇場はダンスの殿堂といふことで、ふたつの舞踊団が常打ちにしている。当公演担当通訳の島崎麻美さんはここのダンサー兼振付師で、スタッフからも「マミ、マミ」と人気もの!
今回は大使館と基金さんの熱意とご尽力で、テルアビブ公演は所作板、大道具等をコンテナで別送したので、メキシコ公演に次ぐ規模となった。どんなところでも踊って来たので、どんなところでもへっちゃらだが、やはり所作板で踊れる幸せを噛み締める。

9月6日 21:00 テルアビブ公演開幕

入れ込みが遅れて10分押し。大使館の嶋根さんの情報によると二日間とも予約も含めて満席とのこと!料金は140シュケルで日本円だと約3000円。こちらでは高めの設定でこの売れ行きとは嬉しい。新聞、テレビ、ラジオなどメディアの取り上げも多く、情宣も行き届いている。
最初の挨拶で大きな拍手を貰った松五郎さんは途端に緊張度が増したらしい。ガンバレ松五郎!
客席はエルサレムとは違い大人しいお客様で、鷺娘で引き抜いても拍手は全くない。しかし、海外ではこれが普通で、むしろエルサレムの客席のほうが日本的。今夜は湿度が高く蒸し暑い。テルアビブは地中海沿岸だからエルサレムとは雲泥の差。爽やかなエルサレムが恋しい。
鷺娘も石橋も汗みどろとなったが、大人しかった客席が、石橋が終わりカーテンコールになると万雷の拍手!熱心に見入って下さった客席に感無量。途中、獅子の扮装の開きがプロジェクターの故障で遅れたが、95分強で上がったから問題ない。佐藤大使ご夫妻もご観劇頂き、終演後は楽屋までお越し下さって全員を労って下さる。「また来てください」と真顔でおっしゃって下さったのでビックリするやら有り難いやら。私も体力勝負だが、ここまで頑張れたので残すはあといち日だ!ガンバレ京蔵!ガンバレ松五郎!

9月7日 22:00 本日千穐楽

金曜日日没から土曜日日没までは安息日の真っ只中だというのに、劇場側からの要請で深夜22:00の開演。
人が集まる目算からだろうが、エルサレムと違いテルアビブでは安息日はそれほど厳格なものではないらしい。
そう云えば、エルサレムは(テルアビブもほぼ同様)ホテルでもレストランでも肉類は一切なく、魚と野菜ばかりで驚いた(唯一の中華料理店のみ肉があり、他はイタリアンでも肉類はない)。しかし自分自身、肉を食さなくても食生活に支障がないことは思いの外であった。
一昨日の舞台稽古、昨日のテルアビブ公演第1日目と二日間張り切ってしまったので、今朝はさすがに身体が重い。
朝食抜きで11:00まで爆睡して、お腹がすいたのでランチはチャイナコートの中華と決めて、歩いても15分ほどなので地図を頼りにおもてに出たら、蒸し暑いのなんの!大汗掻いて辿り着いて、それでも海老炒飯と酸辣湯に癒されて、帰りも汗びっしょりになり、シャワーを浴びて昼寝をして、18;00に劇場入り。やはり身体がだるい。鷺娘と石橋を果たして最後まで勤められるだろうか?少し不安になって、でも「ええ!ままよ!」と開き直って鷺娘の幕が開く。変に裾が足に絡み付く。足が疲れて、腰が切れていない証拠。平打ち(簪)を鷺の嘴に見立てて、坐って右足を軸に左足でひと回りするところもきのうまでは平気だったのにきょうは不安定。こういう時は挽回しやうと思って余計なことを仕がちだが、努めて「無心に、無心に」をお念仏のやうに心に唱える。
石橋も一瞬毛が振り切れず絡み付くが、「ええい!」とばかり振り解き、「無心」など何処へやら、舞台で死ねたら本望とばかり、ここ1番の役者根性丸出しで振って振って振り切った!女方の獅子にあるまじき蛮行!師匠ごめんなさい。歌舞伎の神様ごめんなさい!
ともかく、大人しいが熱心な客席から万雷の拍手を頂いて無事に終演。重圧から解放された故か?とたんに元気回復!
慣れない仕事に大変協力的だった劇場スタッフにお礼を述べて、午前0時過ぎに劇場をあとにした。
さて、今公演では、スタッフとの通訳やさまざまな雑事に奔走してくれたヘブライ大学生20歳の廣安光生君と、一行全員また荷物の運搬業務全般に渉り獅子奮迅、八面六臂の活躍をしてくれたドライバーマネージャーのジョニー氏の功績が大きい。このおふたりの協力がなければこの公演は成り立たなかった。あらためて御礼申し上げます。
松五郎さんもホッとした様子。この度の公演参加が今後の彼の為に少しでも役立つなら、私は嬉しい。
深夜のレストランでワイングラスを傾ける基金の阿部さんの嬉しそうな顔!いや、安心するのはまだ早い。明日は最後の難関テルアビブ空港のセキュリティーチエックが待ち受けているではないか!嗚呼!

9月8日 13:00前 テルアビブ空港

出発は17:30だが、安宅の関所突破!?はこのくらいの余裕が必要。噂に聞き及ぶ出国の困難さは相当なものらしく、入り鉄砲に出女ではないが、見ていると引っ掛かってしまった金髪の女性がスーツケースを開けれれて荷物の中身を全てチエックされている。それが1時間以上も!そのチエック担当者が、いじめの官女や悪腰元の霧島ならぬ、美しくもまた憎体な長身の岩藤と云った風情だからふるっている(笑)見入ってしまった!
しかしながら、時間は掛かったし、小道具や大道具の中身は調べられたし、スーツケースを開けさせられた方も居たが、存外スムーズに突破出来たことは、これも歌舞伎の神様のご守護ゆえと三拝九拝した次第。最後まで親身にお世話してくださった大使館の皆様に感謝して搭乗。

9月9日 18:00 成田空港着

中野さんの挨拶、私の挨拶、阿部さんの挨拶、文五郎さんの手締めで解団式。
いつも思うことだが、こうして成田に無事到着してこそ、この公演は本当に成功だったと云えるので、事故も怪我も病気もなく、エルサレム、テルアビブ両都市とも盛況で反響大だったことは感に堪えない。肩の荷が下りた。
15名の同志の人々よ!(またしても大袈裟な!笑い) 本当にお疲れさまでした!

イスラエル公演余話



エルサレムでの公演はイスラエル国立博物館内で行われたが、その折、当館所蔵の錦絵展に歌舞伎衣裳展が併設されたことは前述した。
私も稽古の合間に拝見させて頂いたが、その東京三越提供の衣裳三点中の一点が妙に心に引っ掛かった。
それは、朱色ちりめん地に雪輪と梅の総柄の振袖(写真参照)。娘役にはもってこいの衣裳で、ことに雪輪模様は鷺娘の定番の柄だから、白無垢から引き抜いた時にはドンピシャだった。着たいと思った。
いい衣裳だった。しばし見とれていた私はあることを思い出した。
雪輪は明石屋の定紋で、師匠も友右衞門時代は、贔屓の衣裳屋さんが、雪輪や水仙丸(替え紋)模様入りの衣裳を沢山作ってくれたと常々話していた。もしかしてこの衣裳も…?何処かで見た記憶が…?
私は帰国後、師の資料を引っ張り出して調べた。すると果たして昭和23年発行の大谷友右衞門後援会報誌に、この衣裳を着て、簪の薬玉を手にした娘姿の師の写真があるではないか!(写真参照・役名不明)
確かにあの衣裳だった!私は仰天した!
師の没っした今年、師が着ていた衣裳に65年余りの時を経て巡り会えるとは!それも異国の地で。
私は深い感慨に囚われた。
皆様もどうか、この衣裳をご覧頂いて、師を偲んで頂きたい。

会場のスザンヌ・デレールセンター前庭にて
劇場のエントランスにて
定式幕も日本より運びました
鷺娘舞台面
所作板も日本より運び入れました
同じく鷺娘の舞台面
二階客席より
石橋の舞台面
獅子奮迅の活躍をしてくれたジョニー氏
公演の新聞記事
長唄の皆さん
お囃子の皆さん
客席の様子
鷺娘
松五郎さんによる扮装のレクチャー(化粧)
同じく(着付け)
同じく、獅子の毛を被る
出来上り!
石橋
石橋
石橋
幕切れ

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