文化交流使 気まぐれ旅日記
文化交流使 気まぐれ旅日記 その1
この度、文化庁から文化交流使の拝命を受けた。世界各国での歌舞伎のご紹介の任務である。派遣先はアメリカ(サンフランシスコ・ロサンゼルス・ミシガン)→メキシコ→キューバ。31日間の長旅である。一行は、私・早稲田大学の児玉教授・衣裳の武村氏・床山の河野氏・松竹の中野氏・小田切氏の6名。以下は、その私的な旅日記である。
11月5日 19:45 羽田発
夜便は身体に優しく(笑)、到着後は助かる。
同日 12:00 サンフランシスコ着
サンフランシスコは10年ぶり4度目の来訪。
同日 18:00
サンフランシスコ総領事公邸での夕食会に招かれる。美味しい和食。宇山総領事ご夫妻の歓待に一同感謝!UCバークレーでの初日にお越しになる由。
11月6日 13:00
宿泊先ホテルの斜向かいのカフェにてレクデモ打ち合わせ。UCバークレー通訳担当のベス先生、シアター・オブ・ユーゲンの吉田さん、野村副領事同席。60分ほどでスムーズに終了。これまでの経験で、いつも通訳さんとの打ち合わせで難渋するのだが、ベス先生も吉田さんも専門的なことはバッチリで心強いのひと言!カーテンコールは、ローカル音楽で獅子の毛振りをと提案したところ、ベス先生は「必要ありません」とキッパリ!流石の見識で恐れ入りました。この度は、レクチャーで児玉先生の協力を頂いているので、こちらも従来よりアカデミックな内容になるのでとても楽しみ!児玉先生とフィッシャーマンズワーフに出て遅いランチ。フィッシャーマンズは26年前に郡司正勝先生とも来たっけ!嗚呼!往事茫々・・・。
夜半、松竹の中野さん・小田切さん・児玉先生・私の4名でイタリアンで夕食。こちらはタクシーもほとんどUberの配車が主流で、アプリで呼び出して、目的地を告げ料金を決めるシステム。個人が自家用車を使っての副業、運転手とお客の相互評価なので、安心安全清潔で、とても便利でビックリ!日本じゃ、タクシー業界の猛反発で無理でせうね。
11月7日 16:00
UCバークレー校にて初日開幕。今回、文化庁の予算があまりに少なく、不完全なかたちでの歌舞伎の紹介はよくないと松竹が懸念してひと肌脱いでくださり、企業から協賛金を集めてくれたので、やっと衣裳もあたまも全行程で付けられたという次第。これで必要最低限のかたちが整えられた!海外での歌舞伎レクデモに衣裳とあたまは絶対不可欠!案の定、衣裳やあたまのことばかり褒められる!(笑) 終演後のレセプションに駆け付けると(化粧を落として荷物を纏めるから、私はいつもどこでも最後の最後!笑)、大好きなカリフォルニア産のBOGIEという白ワインのボトルは全て空になっていた!ギャフン!
宇山大使ご夫妻やUCバークレーのフィリップ教授、日本人会の皆様から労いのお言葉を頂き、初日の緊張感がほぐれ、無事に初日が開いたのでひと安心。ベス先生はじめ、お手伝い頂いたUCバークレー校の皆さんに感謝!感謝!
文化交流使 気まぐれ旅日記 その2
11月8日 19:30 サンフランシスコ州立大学にて第2回目開演。
文化交流使の要項には、それぞれ交流使自身のネットワークも駆使すべしとあるので、サンフランシスコ州立大学とシアター・オブ・ユーゲンとミシガン大学公演は私の提案で実現した。
サンフランシスコ州立大学の後藤幸弘先生は、1997年に、サンフランシスコで能をベースにした演劇活動を展開されているシアター・オブ・ユーゲンの土居由理子さんのプロデュース・演出による「血の酒・血の婚礼」でご一緒して以来のご縁がある。11年前の国際交流基金主催の歌舞伎レクデモ公演もこちらの大学内のキャパ540席のマッケナ劇場で実施した。今回は小規模なので、320席ほどの講演会用ホールだが、ステージとしては十分な広さ。昨日のUCバークレー校同様、領事館から拝借した一双の金屏風を割って上下に配置してもらい出入り口と引き抜きのスペースを確保。この金屏風が有ると無いとではステージの雰囲気が大違いで、殺風景な空間が一変するから金屏風の威力は絶大!

11年前同様、「歌舞伎は感動感激したら、素直に拍手し掛け声を掛けなさい!」という後藤先生の熱い!熱い!レクチャーのおかげで、学生たちはノリノリで、私が藤娘でポーズを決める度ごとに「京屋!」「京屋!」の掛け声が乱れ飛び!引き抜きで大歓声!客席参加の女方のレクチャーも大うけ!獅子の毛振りもヤンヤヤンヤの拍手喝采!カーテンコールで「ラ・バンバ」(選曲は後藤先生)が掛り、私が毛を振り出すと地鳴りのやうな歓声が起り、スタンディングの拍手!拍手!拍手!演者の私のほうがタジタジで気恥ずかしい・・・、しかしまあ、これだから役者はやめられまへんなあ!(笑)
大学側から私と児玉先生に花束贈呈があり、無事に終演。バックステージで、獅子の扮装のまま大学新聞の取材(左写真はその記事・クリックで拡大します)。児玉先生によると、バークレー校をご覧になったご婦人がまた観たくて、今夜はご主人同伴でお越しになった由。有難いことである。裏方全般を務めてくれた学生の皆さんのおかげで滞りなく進行し、感謝!
後藤先生の尽力にも深謝申し上げ、再会を約して大学を辞し、22:30前にホテル到着。領事館のサポートは本日までで、野村副領事に御礼を述べて別れ、一行6人全員でユニオン・スクエア近く、ハリーポッター専用劇場真向かいの日本食レストランで遅い夕食を摂る。ハリポタ劇場を目の前にして、中野さんのテンションは上がる!!!(笑)
文化交流使 気まぐれ旅日記 その3
11月9日 11:00シアター・オブ・ユーゲン(NOH Space)到着。
郡司先生の「サロメ」から25年ぶり、「血の酒・血の婚礼」から23年ぶり。とても懐かしい。ユーゲンが入る大きな建物は一大芸術村になっており、多くの芸術家が居住している。「サロメ」を上演した劇場Theatre ArtaudはZ spaceと名を変え健在だったが、吉田さんの話しによると、当時の倉庫を改造した野性味溢れる異空間ではなくなり、小綺麗な劇場空間になったとか・・・。内部を見学したかったがcloseだった。

「サロメ」の稽古の折、ランチで通った近所のベトナム料理店も健在。私はここでベトナム麺(フォー)とパクチーの美味しさを初体験し嵌まったのだが、郡司先生が「パクチーのどこが美味しいの!気が知れない!」とプリプリ怒っていたとは、同行した郡司門下の大倉さんの証言(笑)

さて、NOH Spaceの楽屋はとても狭くて、私も衣裳さん床山さんも一苦労だが、どんなところでもなんとかなってしまうのは、これまでの経験値。舞台設営、照明の具合、音出しのタイミング等々リハも滞りなく終わり、15:05過ぎ開演。吉田さんと共同ディレクターの金子美和さんの通訳・進行。客席数60ほどの小劇場だが、マイクも必要なく、レクデモには相応しい空間。客席は見巧者が多い雰囲気。私の女方のレクチャーのあと質疑応答があり、今公演はじめて。私が質問の意味が解らず難渋していると、児玉先生が助け船を出してくださる。中野さんがいい質疑応答だったと評価。なお、先日の打ち合わせで、女方のレクチャーの中で「シニアの女性差別」と受け取られる箇所の削除の申し入れが吉田さんからあり、それにはUCバークレーのベス先生も同意されたので、今日もその部分はカット。20年前に比べて、女方に対する興味本位な質問は無くなったが、女方の型、技法が「女性に対するステレオタイプの助長」と受け取られかねない懸念は20年前と少しも変わらず、今後、海外での女方のレクチャーの在り方に色々煩悶する。

さて、気を取り直して(笑)、カーテンコールの毛振りの現地音楽は吉田さんの選曲で、「ロッキー・ホラー・ショー」の人気ナンバー「タイムワープ」。今回のレクデモに意味付けした凝った選曲らしい(笑)。拍手鳴り止まず、二度毛を振る大サービス!(笑)。サンフランシスコ3ヶ所3公演もこれにて無事終了。
サンフランシスコは劇場、レストラン、公共施設のトイレは全てオールジェンダーの表記(左写真)。昨年訪れたニューヨークでは見かけなかったことだ。

話しは変わるが、吉田さんによるとIT産業の大富豪の若者がサンフランシスコに次々と拠点を構えた為、不動産の価格が高騰し、特に芸術家の若者が住み難くなり、ホームレス化している現状の由。なにせ、ワンルームで30数万円とは異常事態である!
夜半、「サロメ」と「血の婚礼」の時、英語で義太夫語りを勤めた元ユーゲンメンバーの平田幹生さんと涙の再会!意気軒高お元気でなにより!土居さんご夫妻・平田さん・児玉先生・私で乾杯。平田さんとは再会を、土居さんご夫妻とは明日のお目文字を約してそれぞれ別れたあと、児玉先生たってのご希望で、25年前郡司先生がこよなく愛したお店にご案内したのだが、そのお店は2018年にcloseしていた。嗚呼!またしても往事茫々…

児玉先生は、この閉店したお店を「西朔夢幻仙境遺跡」と命名した!
文化交流使 気まぐれ旅日記 その4

11月10日は休演日。ユーゲンの土居さん邸にお招きを頂く。途中、花壇の中を縫うやうに抜ける急勾配の坂道ロンバート・ストリートで車を降り記念撮影。それからゴールデン・ゲート・ブリッジを渡って対岸高台の土居さん邸へ午後0:30過ぎ到着。

23年前は、サンホセのお住まいの方に伺ったが、こちら新居は初めて。はたして、その邸内から望むサンフランシスコ湾の眺望たるや絶景のひと言!息を呑んだ!また、山越しに滝のやうに湾へ流れ落ちる濃霧は2度と見られぬ自然現象の極致!絶景かな!絶景かな!とはこの景色にこそ相応しい科白!

我々一行6人、領事館のアヤさん、児玉先生の叔母様とご友人(こちらに在住の叔母様は土居さんの昔からのご親友で、昨日のユーゲン公演もご覧くださった。合縁奇縁)、ユーゲンの吉田さん、金子さんご夫妻、土居さんご夫妻が一同に集い、こちらからは昨日のユーゲン側の尽力に感謝し、土居さん皆さんからは楽しいレクデモだったとのお言葉を頂き、乾杯!!!土居さんが徹夜で作ったという(笑)美味しい手料理とワインを楽しむ。一同名残を惜しみつつ再会を約して、16:30過ぎ辞する。この絶景は是非また見たい!
夜半、児玉先生が演博の催しで使う物品を買いに行きたいとのことなので、ウーバータクシーで向かう。アフガニスタン出身の運転手さんに45歳?と云われて、気をよくする私!呆れる児玉先生!(笑) 無事に購入して、近くのバーで一杯飲んで帰途に付いたけれど、明日は移動だけだし、まだ全然話しが尽きないので、ホテルから近距離の児玉先生お薦めのザ・アメリカ!とも云うべきお店「アメリカンダイナー」で、珈琲飲んで深更までおしゃべり。

11日 ロサンゼルスへの移動日。12:30離陸、30分ほど早くロスに到着。UCLAのゲストハウスへ直行。サンフランシスコのホテルが、工事中の建物の真ん前で大変喧しかったのに比べ、こちらは大学敷地内の木々に囲まれた閑静な環境でホッとひと息。
18:00よりUCLA主催の夕食会に一同お招きを頂く。エメリック・島崎聡子UCLA教授ご夫妻、十重田早稲田大学教授・田中ゆかり日本大学教授ご夫妻、上甲由美さん(早稲田大学国際担当)各氏同席。話題は多峡に亘り、話しは尽きず。21:00過ぎ散会。
文化交流使 気まぐれ旅日記 その5
ここで、遅ればせながら、今回の一行5人のご紹介をしておきたい。松竹の中野さんは歌舞伎海外公演のベテランプロデューサーで、国際交流基金の歌舞伎レクデモ公演の製作が松竹に移った2001年から、私はずっと面倒をみて頂いている。私と中野さんの信頼関係は不変不動!中野さんの部下の小田切さんは元アメフト選手のナイスガイで、海外公演は初デビュー。松竹衣裳の武村さんは、人手が足らないから後見まで勤めてくださる大ベテラン!私とも何度も海外公演へは同行した。本人曰く「いつも治安の悪いところばかり!」と愚痴るが(笑)、でも剛健強面(失礼)の武村さんが居れば超安心!(笑) 光峰床山の河野さんは海外公演初デビュー。丁寧でセンスのいい仕事振りは信頼度抜群!さて、早稲田大学の児玉教授は、歌舞伎評論界を背負って立つ中堅トップランナーで、その博覧強記には舌を巻く!辛子の効いたユーモアは、流石!郡司正勝門下!(笑)

11月12日。午前10:00にUCLAのゲストハウスを出発。リトルトーキョーの高野山別院に向かう。児玉先生は日系人博物館へ調査の為、別行動。早目に到着したので、中野さんの手配で日米劇場(現在はAratani Theatreと改称)を訪問。こちらは10年前の歌舞伎レクデモ公演で舞台を踏んだ。その折に大変お世話になった日米文化会館の小坂博一さんに邂逅、再会を喜び合う。バックステージにはこれまでの様々な公演のポスターが壁一面にズラリと貼られており、我々の公演のポスターも有った!有った! そうだ!私と又之助さんが劇場スタッフに乞われて、所作板の裏にサインしたことを思い出した!この劇場に出演した方は皆さんサインをするそうで、錚々たる方々のお名前を目の当たりにして、躊躇しまくったこともまた思い出した(笑)

11:00過ぎに高野山真言宗別院に到着。小坂さんも同行。今村主監はじめ僧侶皆さんの出迎えを受ける。会場と楽屋回りの下見と打ち合わせ。舞台は如来様の前、つまりご本堂のいつもは読経、祈祷をされるスペースで、如来様にお尻を向けて踊るわけで、恐れ多くてまたまたビビる!でも、こちらは戦前から歌舞伎舞踊や能など様々な日本文化が催されたと伺い、つまり色々な意味で日系移民の皆さんの心の拠り処、文化交流の場であったわけで、また、先だって逝去されたジャーニー喜多川さんの父上がこちらの主監だったそうで、今年(2019年)の8月には、ジャニーズによる追悼公演もあったと伺い、感慨一入。

高野山様のお計らいで、地元名物のハンバーガー店にご案内頂きランチタイム。キジやらウサギやらヘビやら(のソーセージ)がメニューにありドン引き!私はチキンをチョイス。そのあと、曹洞宗禅宗寺を訪問。小島ご住職皆さんの出迎えを受ける。こちらでもジャズフェスティバルや和太鼓等々の催しが有る由。今村主監も小島住職も異口同音に、日系4世5世の方々の日本文化への関心の薄さを懸念されておられた。両寺の皆様に感謝して別れ、領事館に向かう。

14:00に領事館に到着。武藤総領事に一行6人で表敬訪問。今回は10年振りの歌舞伎レクデモ公演で、前回よりも規模が小さく、女方に絞ったレクデモと報告。総領事からは、広く浅くではなく、女方に特化した専門的なレクデモのほうが関心が高まり、好ましいでせうとのお言葉を頂く。服部佑子領事は16日の高野山別院の公演におみえになる旨伺う。15分ほどで辞し、ゲストハウスに戻る。

18:00より、ビバリーヒルズのローストビーフレストランで食事会。中野さんと昵懇のジャンバー氏ご夫妻(夫人は総領事館に勤務されている白井万記子さん)と10年振りに再会!ジャンバーさんのなんちゃって関西弁の口の悪さは、相変わらず健在!(笑)

文化交流使 気まぐれ旅日記 その6
11月13日 中野さんは早朝に帰国。今回は小田切さんの海外公演デビューなので、「可愛い子には旅を云々」の喩えの通り、残り千穐楽までの無事な道中は、全て小田切さんの双肩に掛かっている。小田切さん試練の巻!頑張れ小田切!(笑)


14時に国際交流基金の事務所到着。原所長さんはじめ職員皆さんの出迎えを受ける。今日の会場は、この事務所の講演?展示?ホール?ルーム?なので劇場的設備はない。床もカーペットなので踊り難いがリノリュームよりはいい。基金さんの提案で、客席センターは座布団に坐る形式にし、椅子は両サイドと後方に配置。舞台となるスペースは上手下手とも出入り口がないので、会場入り口のドアから客席後方を通って登場退場することに変更。後見の武村さんも逃げ場が無くて気の毒だが了承してもらう。舞台正面は映像用のスクリーンだけで殺風景だったところ、通訳担当のカークさんが手製の屏風を持ち込んでくださったので、舞台らしくなって助かる。カークさんは元山城屋さんのお弟子で、芸名鴈京さん。日系二世で、現在はロスで日本舞踊家として活躍、またUCLAで教鞭も執っている。台本が届いていない不備があったが、鴈京さんならぶっつけ本番でも超安心!打ち合わせ、リハーサルも無事に済み、休憩時間に原所長さんからロサンゼルスの芸術事情を伺う。肩書重視のニューヨークより、ロスのほうが若い人の可能性は有るとのこと。また、こちら基金事務所では、先週が流鏑馬、今週が歌舞伎、来週が雅楽と日本の伝統文化紹介が続く由。

定刻19時より5分押しで開演。客席は若い方が多く、アーティスト系多数と見受けられる。静かだが熱心な雰囲気が伝わる。泣き笑いのワークショップはどこでも大ウケ!大変な見巧者が客席に居ると聞いてビビる!客席が明るいから、なおさら緊張度が増す!

会場が狭いし(目と鼻の先にお客さんが居る)、足元のカーペットがやはり不自由だったが、ともかく21:30過ぎ無事終了。楽屋で、基金さんの広報用の映像撮影。毛を振って「this is my JAPAN!」とひと言決めて、レンズを睨んでポーズ!(笑) 原所長さんがお弁当を差し入れてくださったので、明日が早いから大助かり!基金の皆さんにお世話になり感謝!感謝!

文化交流使 気まぐれ旅日記 その7

11月14日 今日は午前10時からUCLA公演。
8時、ゲストハウスに通訳のカークさんが自家用車で屏風を持参、荷物も運んで搬入を手伝ってくださる。カークさんに感謝!
我々も徒歩で大学内の会場Glorya Kaufman Dande Theaterに向かう。広大な大学敷地に一驚!楽屋は8:30以降にしか入れないとのことだったが、スタッフの御好意で早めに入れることになった。準備の時間がないので助かる。

舞台の床はウッディーで広々とした空間が気持ちいい!照明も万全。屏風は、出入りと引き抜きスペース確保の為、上手の袖に設置し、舞台正面は白いスクリーンのままとする。スタッフとの段取りの打ち合わせは児玉先生にお任せして、藤娘の支度に掛かる。それでも10時の開演には間に合わないので、先に児玉先生のレクチャー@をして頂き、藤娘は10:30の掛かりとする。授業の一環なので、客席は学生が大半。みな、不思議そうに観ている(笑) 客席センター、私の目線の真ん前に微動だにもせず熱心に見入る学生が居る。かと思うと、女方のレクチャーの途中で客席を出て行く学生も居る。反応は様々。質疑応答も2問ほど受ける。
ともかく、明るい照明の柔らかな光の空間に癒されて、藤娘も石橋も気持ちよく踊れた!エメリック先生ご夫妻に感謝され恐縮。十重田先生ご夫妻が昨日に引き続きのご観覧で重ねて恐縮。エメリック先生はグランド歌舞伎を招聘したいそうだが、それは今後のこととして、まあ、今回はこれでご勘弁ください(笑)

さて、昨日基金の客席に見巧者が居ると記したが、それはロスで長年活動されている宗家藤間流の藤間都さんご夫妻で、本日もお越し頂き大変恐縮する。それどころか、明後日の高野山別院公演には母上の藤間勘須磨師(おん年なんと101歳!)もおみえになると聞いて仰天!勘須磨師は6代目菊五郎に指導を受けたという猛者!そんなスゴイ方に私ごときの拙い舞台を見られたら、たまったものではない!ああ!怖い!

終演後に都さんご夫妻にランチのお誘いを頂いたのだが、昨夜の基金公演から今日早朝の公演と続いたので疲れがピークで血流が滞る(笑)・・・なので、今日はお断りして、明日のランチに変更して頂く。
児玉先生の同行は本日までで今夕帰国。お礼を申し上げて、またゆっくり帰国後にお目に掛かりませうと約束したものの、それからついに8か月以上も会えない事態になるとは、この時誰が予測しただろうか!
なにはともあれ、懸案のUCLAでの歌舞伎レクデモ公演が実現し、滞りなく幕が下りたので、肩の荷が下りた。
もう首肩腰がバリバリで、校内売店でランチボックスをテイクアウトして、ゲストハウスに籠る。

文化交流使 気まぐれ旅日記 その8

11月15日 午前中にUCLAのゲストハウスを引き払い、リトルトーキョーの都ホテルに移動。正午前、藤間都さんご夫妻のお招きを受け、アメリカーナ・アット・ブランドというショッピングモール内のチーズケーキファクトリーというチーズケーキの美味しいレストランでランチ。こちらでのご活動や、101歳になられる母上勘須磨師のお元気なご様子を色々伺う。
夜半、ジャンパー氏ご夫妻からディナーのお招きを受け、ビバリーヒルズのお住まいに訪問。お庭の竈でジャンパーさん自ら焼いてくださった鶏の丸焼きや秘蔵のワインを堪能し、調度品や絵画も楽しませて頂いた!

16日 午前11時 高野山米国別院入り。宿泊先の都ホテルのとなりだから徒歩で向かう。
今村主監様はじめ、林先生以下僧侶の皆様が至れり尽くせりの対応をしてくださるので、まことに有り難い!合掌。音源の音量ときっかけ、出入り、照明の具合を確認。如来様の前で、如来様にお尻を向けて踊るのは畏れ多い(汗)

定刻15時より5分押しで開演。客席には10年前同様、今回もご尽力頂いた日米会館の小坂氏はじめ、禅宗寺様、檀家の皆様、中でも101歳の藤間勘須磨師が娘さんの都様はじめご門弟20数名を引き連れてご来駕頂いたことは大変恐縮。勘須磨師は今回振付とご指導を頂いた宗家藤間流勘祖師のご一門で、16歳の時に6代目尾上菊五郎の指導を受け、のちに先代勘祖師(6世勘十郎)に入門された強者!私などの拙い舞台は勘須磨師にはさぞ噴飯もので、再三お断りしたのだが、開演前に楽屋までお越しになられ、終演までご覧くださったことは、恐縮を通り越して、穴が有ったら入りたい・・・。この度はゆっくりお話が伺えず無念。また一足先に帰国された児玉先生もしきりに残念がっていた。勘須磨師のような貴重な方の聞き書きは急務である!
とにかく、無事終演。白人の子供さんが熱心に観ていた。獅子の毛振りが大好きだそうだ!
児玉先生の替わりにレクチャーを担当した小田切さんも訥々ながらどうにか切り抜ける。アクセントの間違いが少々あるので、ミシガンで追々直しませう!小坂さんとは再会を約して別れ、高野山の皆様に心から感謝して辞し、空港に向かう。
本番済んで、そのまま夜行便でミシガンに向かわせるとは、鬼の文化庁!(笑)

文化交流使 気まぐれ旅日記 その9

11月17日 夜行便でシカゴ経由〜午前10時過ぎデトロイト着。ミシガン大学さんが手配してくださったワンボックスカーでアナーバに移動。陽気な黒人の運転手さんに癒される。ホテル到着後、15時にミシガン大学の今公演担当者及部先生が迎えに来てくださり、私、武村さん、小田切さんの3名で大学の美術館視察。河野さんは体調悪しく欠席。そりゃそうですよ!ロス公演が終わって、そのまま夜行で来たのだもの、寝たか寝なかったか時間の感覚もわからず、体調もおかしくなりますよ!私もフラフラです・・・
美術館で開催中の「模倣と創造」展および常設展を視察。新館のほうはNYのMOMAのやうな現代アートの数々。
温暖なロスから根雪の残る極寒のミシガン州アナーバに来て体調最悪!(トホホ) 及部さんに懇願して、早目に切り上げて貰う。ホテルの近くの日本食レストラン「MIKI」を紹介して頂き、あんまり寒いので、私も小田切さんも日本酒党で熱燗が恋しくなり、聞いたら燗酒があった!あった!(笑) 大関らしいから正統派燗酒!お燗で身体を温め、ホッとひと息。
茹で枝豆はてんこ盛り!鶏の天麩羅も美味しい。ほうれん草の胡麻和えは胡麻が甘くて甘くて閉口!(笑) もう副交感神経全開で早目に就寝。

18日 11時に今公演のもうひとりの担当者深澤先生が迎えに来てくださり、私と小田切さんで大学に向かう。ジャクソン先生を紹介され、彼の授業を視察するだけと思いきや、講演してほしいといきなり云われてビックリ仰天!30代の若いジャクソン先生の授業は、井原西鶴から三島由紀夫までの「愛と死」についてだと伺い、またまたビックリ!さすが、全米一の日本研究センターの面目躍如!と納得。生徒は20人ほどで、4分の3が女子、日本人の男子がひとり居る。はじめに歌舞伎俳優としての質疑応答があり、そのあと「愛と死」に付いて講演。日本文学や演劇における相思相愛、偏愛、偽りの愛、輪廻転生を繰り返すエンドレスな愛、不毛な愛、切ない愛、そして来世を誓って心中する喜びの死、前向きな死等々を思いつくまましゃべる!彼ら彼女らが理解し易いやうに、映画「ラ・ラ・ランド」の女主人公を引き合いに出す。明日の公演にジャクソン先生と生徒さんたちも来てくれるそうで、明日の公演内容を伝え、全員で記念撮影をして60分ほどで教室を辞する。深澤先生、小田切さん3人で中華レストランでランチをとり、街中に出るとミシガン劇場という建物が気になり、ひと気の無いガラス扉を深澤先生がノックすると、偶然にも支配人さんが出ていらして対応してくださり、内部を見学させて頂けることになった!ラッキー!

はたして内部は築100年以上のクラシカルな素晴らしい劇場!市が取り壊すところだったのを、市民が阻止し、維持運営団体を組織して守り続けているとのこと。文化を守る基本姿勢を痛感。映画上映が主だが、劇場としての機能は万全とのことで、音楽のライブ公演も行っている由。舞台前に電子オルガンがあり、映画上映前に必ず演奏があるとのこと。支配人さんが少し弾いてくださった!ミニシアターも併設していて、こちらは映画専門。親切でいかにも白人紳士の支配人さんにお礼を述べ、記念撮影をして辞する。この劇場に立ちたくなった!
15時楽屋入り、16時リハーサル開始。会場は美術館地下の200人ほど収容の講演会用のホール。舞台はウッディーなので助かる!舞台担当のリサ女史、照明、音響スタッフ皆さんと入念に打ち合わせ。藤娘のナンバー1からどういうわけか石橋が繋がれていて、データの音源は使用不可。持参のCDで対応。メキシコとキューバもその点不安・・・・・。
照明はお願いしておいたスポットライトのお蔭で万全!休憩なし、質疑応答なしで、90分で上げたいとの大学側の意向を踏まえ、映像のレクチャーを多少カットして修正。ただ、獅子の支度が間に合わないので、ロスまでは使わなかった化粧と扮装の映像も、私がもう少し詳しく解説台本を作って、小田切さんに時間を繋いで貰うこととする。小田切さんと通訳さんのレクチャーは、明日開演前にもう一度リハーサルすることになる。19時前終了。
私、小田切さん、武村さん、河野さん4人で、昨夜の日本食レストランで夕食をとりながら、レクチャー台本の加筆修正削除の作業をする。やれやれ・・・。
ふと我に返ると、このたった4人だけでキューバの千穐楽まで乗り切らねばならぬのだ!
ああ!神様!

文化交流使 気まぐれ旅日記 その10

11月19日 ランチがてら、アナーバの街を散策。季節柄底冷えするが、こじんまりしたお洒落な大学街だ。
16時に楽屋入り。大学の美術館1階のひと部屋を楽屋に仕立ててくださる。広くて助かる。小田切さん担当のレクチャーを色々修正したので、通訳さんを交えて17時30分からもう1度リハーサル。

定刻19時より5分押しで開演。200席満席で、入場出来なかった方が30人ほどおられたと聞き、なんとも申し訳ない。客席は学生に交じって年配の白人の方多数。舞台上手に美術館から拝借した金地狩野風の屏風を配置。狭いが床は木材なので踊り易い。小田切さんのレクチャーも段々こなれて来た。楽屋から舞台袖までの動線が、美術館の中を通って、更に階段を降りてと大変な騒ぎ!床山の河野さんがドアを開けたり閉めたり、また衣裳の武村さんが黒衣を着て、私に付きっ切りでサポートしてくれる。おふたりに感謝!感謝!私の女方のレクチャーも反応よく、カーテンコールの獅子の毛振りは、地元で盛んなアメフトの応援歌を流したので、客席はビックリして大盛り上がり!(笑) 90分弱で無事終演。
実は6年前に、当時ミシガン大学の客員教授だった岡田万里子先生から、当大学で歌舞伎のレクデモが出来ないか?と打診があり色々あんもんしたが、やはり経費の面で厳しく実現出来なかった経緯がある。今回、文化庁から自分のネットワークも駆使してくださいとのお達しがあったので、ミシガン大学も行程に組み込むことが出来たという次第。岡田先生との約束がやっと果たせてこんな嬉しいことはない!

終演後、中川総領事ご夫妻がわざわざ楽屋までお越しくださり、長旅の労を労わってくださる。帰り際、現場担当のリサ女史にお礼を述べ、リサさんからも感激したとの言葉を頂き、再会を約す。
ホテルに戻ったのが21時過ぎ。行きつけの日本食レストランがもうクローズなので、地元密着型のスポーツバーで、一行4人でビールとハンバーガーで乾杯!ここはここで楽しい!
文化交流使 気まぐれ旅日記 その11

11月20日 今日は休演日で、日本を離れて以来やっとマッサージに掛かれた!もう全身バリバリ!(トホホ) 及部先生がお薦めのマッサージ店を予約してくださり、ホテルから車で20分ほどのところなので、送り迎えもしてくださった。感謝!少しほぐれて楽になった。

11月21日 デトロイト総領事館公邸表敬訪問及び夕食会。17時にホテルでミシガン大学日本研究センター所長の筒井先生、深澤先生、及部先生と我々4人が合流し、公邸に向かう。18:10前、公邸到着。総領事ご夫妻の出迎えを受ける。地元産の食材を使った和食でおもてなしを受ける。ご夫人が大の歌舞伎好きと判明!話しが弾む。中川総領事も気さくなお人柄で、話題は政治、経済、文化と多峡に渉る。経産省のご出身で、経済的な歌舞伎海外公演の難しさも熟知しておられる。こういった小規模でも歌舞伎のご紹介の公演はどんどんしてくださいと励まされる!20:30過ぎお開き。総領事ご夫妻に心から謝意を述べ、公邸を辞する。

11月22日 メキシコへの移動日。未明の5:45にホテル出発、デトロイト空港に向かう。
さあ!これからが今ツアー最大の見せ場!いえ、難所!山場!です!
搭乗予定のデルタ航空はこの時期、サンクスギビングデー期間は、メキシコシティ行きの便は、全て荷物はひとり2個までと制限。我々4人で11個の荷物など頑として受け付けない!(聞いてませ〜ん!) ついに乗り遅れる!嗚呼!
私はこれまで空港でのトラブルは散々経験して来たので、少々のことには驚かないが、乗り遅れたのは初めて!エエ、ままよ、メキシコでの公演には日程的に余裕があるし、今夜はデトロイト泊りかと腹を括っていた。が、青くなったのは小田切さんで、領事館に連絡を取ったところ、茶城さんが血相変えて飛んで来て、小田切さんと対策を練り、エアロメヒコ航空で、メキシコシティ近郊のケレテロ空港まで行き、そこから大使館の車でメキシコシティに向かうことに落着。やれやれ・・・。茶城さんが「これに懲りずまたミシガンに来てください」と恐縮されるので、「大丈夫です!また来ます!」とこちらが恐縮する。
とほっとしたのも束の間、ケレテロ空港では大量のカルネ(衣裳・かつら・小道具等々の通関手続き)の荷物など取り扱ったことがないので、びっくり仰天したらしく、荷物をほとんど開けて調べられる。というのも、カルネの書類と荷物に齟齬があり、それはデトロイト空港出国の際、荷物の重量を均等にする為、色々仕訳けたので仕方がない・・・(トホホ) すったもんだしているところへ、メキシコ大使館のロドリゴさんが出口から逆走して来て(仰天!)、係員に説明の限りを尽くしてくださり、90分後、やっと無罪放免と相成った!空港係員も、私が荷物をひとつひとつ取り出して説明しやうとすると、もうわかった!と切り上げてくれたので、鬼ではなかった(笑)
で、車で2時間掛けてボロボロになってメキシコシティ到着。ホテルでは大使館の東さんが出迎えてくださり、全ての予定変更準備手続き万端滞りなく、疲労困憊の我々を深夜まで営業している日本食レストラン(居酒屋)にご案内くださり、労ってくださる。 とまあ、波乱万丈のメキシコ行き!ホント!お疲れ様でした!
文化交流使 気まぐれ旅日記 その12

11月23日24日OFF
波乱万丈!疾風怒濤!阿鼻叫喚!こけつまろびつ!のメキシコ入国から一夜明け、身体はもうボロボロで(トホホ)、大使館のご紹介でマッサージ師さんにホテルに来て貰う。ミシガンのマッサージ師さんはソフト系だったが、今日の日本人のマッサージ師さんはハード系!で、かなりキツ目。2日間お休みなので大変助かる。夕食は9年前に通った和食の「ミカド」。かなり本格的でまずまず美味しい。燗酒もある(笑) 只、メキシコシティは高地なので沸点が低く、ざる蕎麦は茹で過ぎでダメ(笑) 汁蕎麦は大丈夫。鮓もお刺身もあるが、海外公演の時は生ものは一切口にしない。日本に帰るまでお預け。24日の夕食は、小田切さんが別の和食居酒屋を見付けてくれたので行ってみる。ここ(写真)は異国の和食という感じ。でも、大関の燗酒があってビックリ!よく賑わっている。

11月25日 15時から大使館で通訳のイレーネさんと打ち合わせだが、デモがあるとかで、大使館よりの迎えが15分早まる。車窓から見ると道路には大勢の女性警察官!聞くと女性の人権を訴える女性によるデモとのこと。只、女性の暴力的な破壊行為があるとかで、なにをか云わんやである。
イレーネさんと9年ぶりに再会!元タカラジェンヌであるイレーネさんのキュートで明るいキャラは相変わらず健在で旧交を温める。イレーネさん、東さん、otaniさん、小田切さん、私とで入念に台本の打ち合わせ。言葉の違いの微妙なニュアンスが難しい。16時よりプレス取材。3社ほど。以前より女方についての興味本位な質問はなくなった。コラボはどんなことをするのか?と聞かれたので、観てのお楽しみと答えた(笑)
竹村さん、河野さんと合流して大使館の夕食会に向かう。衣裳の竹村さんも9年前一緒に来ているので、イレーネさんと涙の再会!抱擁しきり(笑)
18:10に大使館到着。高瀬大使、桑名公使の出迎えを受け、お心尽くしの和食で労ってくださる。基金の杉本さん同席。私から9年ぶりの来墨のお礼を述べる。先ほどの打ち合わせでも痛感したが、東さんとotaniさんのご尽力にはあたまが下がる。
明日の公演は、高瀬大使はご所用でお越しになれないとのことで、代わって桑名公使がおみえくださるとのこと。話題は歌舞伎の掛け声に及び、明日は桑名公使が掛け声に挑戦されるとのこと!楽しみであります!(笑)
文化交流使 気まぐれ旅日記 その13

2019年11月26日
メキシコ公演本番。正午前、国立芸術センターに到着。ここは演劇学校もある一大芸術村だ。今日はこのセンター内のキャパ270人のサルバドル・ノボ劇場が会場。小劇場だが設備は万全。照明と大使館からお借りした金屏風の配置等々舞台設営の確認後、ランチを挟んで、14時よりリハーサル開始。衣裳とかつらの準備が本番まで間に合わないので、私は素(浴衣)のままだが、案の定、現地スタッフはキョトンとして、私を横目見している(笑) まあ、仕方がありませんね(笑) カーテンコールの音出しのキッカケを入念に打ち合わせ。通訳はイレーネさんだから超安心!
開演までの休憩中、楽屋では小田切さんが、明日のキューバ入りの際にメキシコ入国のすったもんだの轍を踏まないやうにと、荷物のカルネ等々の書類整理に追われている。小田切さんは私に、顔色ひとつ変えず「カルネに関する無理難題」を、言外にサラッと匂わすのでびっくり仰天!本番開始まで時間が無い!でもクヤシイから、小田切さんの要望通りに即座に対処して「どんなもんじゃい!」とツケ入りの大見得!(笑)

18:30開演。イレーネさんの絶妙な掴みで、学生たちをはじめとする客席の皆さんは集中力が増し、真剣に観ている空気感が伝わる。桑名公使の掛け声もいい間で入る!ありがとうございます!
私の変身ぶりに仰天したらしく(笑)、センターの照明オペレーターさん、音響オペレーターさんは気合十分!舞台袖のスタッフ皆さんも、先ほどのリハーサルとは打って変わって、食い入るやうに見詰めて居る(笑) やはり歌舞伎は、特に女方は極彩色の人工美が身上だから扮装が第一条件。その点、これまでのレクデモで上演して来た「鷺娘」はドラマチックな要素もあり好演目だということを再認識する。
カーテンコールで、大使館の選曲による「EL Son de la Negra」が掛かり、私が獅子の毛振りを再度はじめると、学生たちは騒然として超ノリノリ!(笑) これぞ異文化交流!
終演後、楽屋に戻ると、スタッフ皆さんが追っ掛けて来て、写真責めサイン責めで、衣裳もかつらも脱げず、嬉しい悲鳴!(笑) かくして、9年ぶりのメキシコ公演も上々の反響でホッとする。通訳のイレーネさんのお力に拠るところ大で、心から感謝して再会を約して別れる。現地語の台本を入念に作られたotaniさんと東さんの尽力にも感謝!感謝!
文化交流使 気まぐれ旅日記 その14

2019年11月27日 午前
メキシコよりキューバへの移動日。出国の際、やはり空港でひと悶着あったが、なんとか切り抜ける。東さんとotaniさんが最後の最後までお世話してくださる。感謝!14時過ぎ、最終公演地キューバの首都ハバナに到着。
むかし、映画「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」を観て関心を抱き、キューバは行ってみたい国だった。そこへまさか仕事で訪れやうとは!
キューバは社会主義国で、アメリカの経済制裁の為(2019年11月現在)、物資が不足し、国民は貧しく、食糧などは配給制(低価格)。情報統制もあるが、治安は悪くなく、教育と医療は充実し、観光立国として成功していると側聞する。
空港では政府側の職員の誘導を受け、入国はスムーズ。ゲート外では大使館の林さん、武蔵さんが出迎えてくださり、マイクロバスで宿泊するホテルに向かう。常夏の日差しが眩しい!15時過ぎホテル到着。大野参事官の出迎えを頂き、ロビーにて日程の打ち合わせ。ホテルで一休みして、17:45、老舗ホテル ナシオナル・デ・クーパ内のレストラン「la barraca」に向かう。18時より大野参事官主催の夕食会。キューバ料理とモヒートで歓待してくださる。本場のモヒートだ!(笑)「ベサメムーチョ」などの生演奏が楽しい!我々の席まで来てリクエストに応えてくれたので、ご祝儀を上げねばと思ったが、あいにく到着したばかりで現地通貨が手元に無い!鞄の中をガサゴソ探ったところ、うん千円の入ったご祝儀袋が出てきたので、それを咄嗟に渡したところ、大野参事官がびっくりして、「そんなにあげちゃダメですよ!こちらの貨幣価値に換算したら、ひと月は暮らせますよ!」・・・と云われてもねえ、返してくださいとも云えませんからねえ(笑) 大野さんは店を出る時、日本円の貨幣価値が解らずキョトンとしているミュージシャン達にしきりに説明していた(笑) ホテルの庭から眺める夕暮れのシーサイドビューはまさにザ・キューバ!ひと月近い長旅の疲れも吹っ飛んだ!

それはともかく、この度のキューバ公演が実現したのは、ひとえに大野参事官のご尽力に拠るもので、大野さんには9年前のメキシコ公演でお世話になった経緯があり、その時のご記憶とご経験が、今回のキューバと日本の外交関係樹立90周年の催しに歌舞伎を招いてくださったキッカケになったことは、大野参事官のお気持ちに感謝するとともに、つくづくご縁の有難さと歌舞伎の底力を思わずにはいられない。
だが皮肉なことに、大野参事官は本日付けで退任され明日帰国される為、公演が見届けられないと聞き、なんとも人の世の無常、官吏社会の非情さを垣間見て寂しくなる・・・
大野さんに心から御礼を述べてお別れする。
文化交流使 気まぐれ旅日記 その15

2019年11月28日 キューバの首都ハバナは快晴!湿度低く、海風が心地よい!
物資は不足し国民は貧しいのに、リゾートホテルの朝食会場には食物が溢れている・・・
正午、旧市街に移動し劇場入り。黒人の女性支配人さんはじめ劇場スタッフが笑顔で出迎えてくださる。このマルティー劇場は築140年近い600人収容のオケピのあるクラシカルで素敵な劇場。
舞台上に鉄骨のブロックの台が広く設置されているので、聞くとこの上で演じてほしいとのこと!エエ!? 以前ローマで、ブロックを組み合わせた舞台に段差があって、非常に難儀をした経験があるので、取り外して貰おうとしたが、上がってみると案外フラットで滑りもいいので、このままでOKとする。獅子の毛振りでは多少不安だが・・・・・
大使館からお借りした屏風の配置、照明の具合、音出しのキッカケ等々を確認して、ランチを挟んで、14時よりリハーサル開始。時間はたっぷりあるので、化粧、衣裳、かつら有りの本番通り。カーテンコールまで入念に行う。劇場側が用意してくださったバックの藤棚(藤娘)と牡丹(石橋)の映像はそのまま使わせて頂くこととする。劇場側の積極的な姿勢が嬉しい!女方のレクチャーで劇場側が用意した字幕は、私と通訳の浅香さんとのやり取りで併用することとする。但し、私のレクチャー内容に追加と削除があるので字幕を修正する必要があるが心よく応じてくださる、感謝!
国営放送の取材が入り、石橋のリハーサル撮りと私のインタビュー。今晩放送予定で、大使館の林さんは「これで観客がたくさん詰め掛けますよ!」と武者震い!(笑)

16:30劇場退出。思いのほか早く終わった!やれやれ・・・ 一旦ホテルに戻り、シャワーを浴びてひと休み。18:30、林さんが予約してくださったイタリアンレストランに向かう。途中、アルメンデス公園に寄り道すると、石橋(写真)がありました!(笑) さらに革命広場に寄り、壁一面に描かれたキューバ革命の勇士ゲバラとカミーロの肖像画を拝んで、海沿いのイタリアンレストランに到着。明日の初日に向けて、モヒートで乾杯!

文化交流使 気まぐれ旅日記 その16

2019年11月29日 キューバ公演初日。13時楽屋入り。字幕の訂正があったので、女方のレクチャーをもう1度リハーサルする。通訳の浅香さんはケニヤ生まれと聞いてビックリ!メキシコのイレーネさんに勝るとも劣らない熱い通訳ぶりで大いに助かる!
浅香さんの案内で繁華街に繰り出しランチタイム。衣裳の竹村さんは仕込みが済むと先にひとりでさっさと出掛けてしまった!何処に行ったのでせう?(笑)


ここ旧市街(オールドハバナ)はスペイン統治時代の建物が美しく、大通りには客待ちのカラフルなアメリカ製のクラッシックカーがずらりと並び、まさしくザ・キューバ!(笑)
繁華街オビスポ通りの石畳の横丁に入ると、路上でミュージシャン達が楽し気に演奏している。街のそこかしこ、レストラン、何処からでも陽気な音楽が常時流れて来る。大道芸人もいる。ランチに入ったレストランはスタイリッシュなキューバ料理!生演奏も楽しい!ああ!まさに画に描いたやうなキューバだ!(笑) 

繁華街を一回りして劇場に戻ると、開演までまだ3時間もあるのにすでに劇場前は長蛇の列!昨日国営放送の取材と報道があり、その効果抜群!有難いことだ。私が藤娘の支度をしていると、小田切さんが飛んで来て、600席満席で、立ち見を入れるだけ入れて、それでも入れない人が数百人ほどいて、険悪な雰囲気になり掛けているのを林さん以下大使館職員の皆さんが必死に鎮めているとのこと!いやはや大変なことになった!客席にもキューバの国民的歌手オマーラさんをはじめ、著名人、芸術家の皆様が多数来席しているとのこと。開演5分前に、藤村大使ご夫妻が楽屋にわざわざお見えになり恐縮の限り。

客席がそのやうなてんやわんやなので、開演は20分押し。通訳の浅香さんが大張り切りで客席を巻き込む!浅香さんのおかげで、藤娘の引き抜きで「京屋!」の大歓声!(笑) 映像を駆使したレクチャーも大好評!石橋も登場から勿論ヤンヤヤンヤで(笑)、カーテンコールで現地の人気音楽「ロス・バンバン」が掛かり、私が毛を振り出すと客席総立ち!興奮度マックス!私も毛振り3回の大サービス!(笑)

劇場支配人、スタッフ、掃除のオバチャンまで大喜び大興奮の巻で、まずはキューバ初歌舞伎の初日は大成功!!!モヒートで乾杯!

文化交流使 気まぐれ旅日記 その17

キューバ公演2日目。朝食後ホテルの売店を覗くと、ゲバラ関連のお土産が満載!
13時楽屋入り。楽屋の支度を済ませ、今日は舞台の確認事項はないので、遅いランチに出掛ける。昨日行った浅香さんお薦めのレストランが気に入ったので裏を返す(笑) 生演奏は昨日とは違うグループ。さすがに今日は草臥れているので、お土産だけ買って、街を散策する皆さんと別れて劇場に戻り、ひと休み。


昨日同様、劇場前は昼間から大変な混雑ぶり!開場時間前後、小田切さんのご注進によると、今夜も入場出来ない人が数百人に及ぶという事態で、「追加公演しろ!」という声が飛び交っているそうで、有難いやら、まことに申し訳ない限り・・・(汗)

藤村大使が開演前のスピーチのみならず、本日もご観劇くださるそうで恐縮する次第。
今夜も客席スタンディングのカーテンコール! 現地人気グループ「ロス・バンバン」の曲で獅子の毛を振っていても、我ながら全然違和感がない。歌舞伎の柔軟性を改めて思い知らされた!

キューバではじめての歌舞伎公演だったので、歌舞伎はつまらないと思われては責任問題だから、私も大変なプレッシャーだったが、この2日間の客席の盛り上がり方を肌身に感じて肩の荷が下りた!そして、支配人さんはじめ劇場側と林さん以下日本大使館がとても積極的に公演をサポートしてくださったことが成功を導いた!心から感謝申し上げます。

終演後の支配人、スタッフ、関係者、掃除のオバチャンまで、皆さんの嬉しそうな顔!顔!顔! 記念撮影が引きも切らず!

日付変わって12月1日午前4時。一足先に帰国する竹村さんと河野さんを見送る。おふたりにも感謝し尽くせない!本当にありがとうございました!

文化交流使 気まぐれ旅日記 その18

12月1日
二日間のキューバ公演を無事打ち上げ、これで文化交流使全10公演が終了した!やれやれとホッとして、今日明日はのんびりしたいところだが、いえいえ、まだ公務は終わっておりません!(笑)


午前10時、林書記官の迎えを受け、小田切さんと3人でまずモロ要塞から市内視察。以前、マニラの要塞を視察したが、モロ要塞はその数倍の規模!マニラの要塞では日本軍の悪辣な行為を示され胸が塞がったが、こちらでは、要塞から眺める美しい海の景色に船影が一切無い(港以外)のは、亡命を防ぐ為だと聞いて複雑な思い・・・・・。気を取り直して、運河沿いのビールファクトリーで地ビール飲んでひと休み。こちらでも生演奏が楽しい。
そのあと、地元の庶民的な商店街で甘い甘いチョコレートドリンクを飲んで、さらに林さんお薦めのホテルGrandPackard内の、絶景な眺めのラウンジでフローズンダイキリを頂きまたひと休み。 なんだか飲んで休んでばかりおりますが、激務を遂行したあとの解放感!何卒ご容赦ください・・・(笑)

 夕刻、林さんの上司の森田さんご家族と会食。宿泊先から徒歩でイタリアンレストランに向かう。林さんが「10分くらいで直ぐ着きます」と云うのだが、まあ、それが文目も分かぬ真っ暗な夜道で怖い怖い・・・すると突然、住宅街の中にぽつんと明かりの灯る一軒家のレストランが!・・・。 まあ、ここの美味しいことといったら!びっくり仰天!今回のキューバでテンではないだろうか!しかし、おしなべてキューバのレストランに外れはない!

さて、森田ご家族と別れたあとは、私が熱望していたキャバレー「トロピカーナ」のナイトショーにGO!GO!GO!(笑) 

キューバ最大の老舗、世界でも指折りのキャバレーと云われる「トロピカーナ」は半屋根で、熱帯の樹木に覆われた野外ステージ。正面にメインステージ、両サイドにサブステージがある大規模な造り。ここのステージに立つことは一流のエンターテイナーとしての折り紙が付くとのことで、生き残りの競争も激しいとのこと。客席にはウェルカムドリンクのほかにラム酒が一本サービスされる。私たちの席は一段高くなっており見易い。はたして開演するや、キラキラ光り輝く舞台!ノリノリのラテン音楽!ダイナミックなダンスと人海戦術!いやもう素晴らしい!楽しい!美しい!もう釘付け!私の大好きな「ベサメムーチョ」も掛かった!あっという間の90分、いやもう堪能致しました!
私が身じろぎもせず見入っているので、小田切も林さんも呆れ顔(笑)
明日はまた公務が待っているので、束の間のご褒美!(笑) コーディネイトしてくださった林さん、ありがとうございました!

文化交流使 気まぐれ旅日記 その19

12月2日 午前9:15 林さんの迎えで、キューバ国立芸術大学舞台芸術科の学生さん達との意見交換会へ向かう。広大な大学キャンパス。10名ほどの学生さん達は今回の公演を2回とも観てくれた由。それぞれ俳優、舞台デザイン、脚本と目指す道は様々。中にひとり、日本に留学して歌舞伎座で歌舞伎を観た男子学生さんが居る。皆さん、本当に細かいところまでよく観ている。活発な質疑応答後、屋外で記念撮影。

12:30 大使公邸での昼食会に招かれる。藤村大使、林書記官、小田切さん、私の4人。和食と日本酒のもてなしが有り難い。大使に2日間もご覧頂いた御礼を述べる。大使からは、日本・キューバ外交関係樹立90周年記念の催しの掉尾を飾る素晴らしい公演になったとお褒めのお言葉を頂き恐縮する。
15:00 大使館にて、プリマドンナのベンサイ・バルデスさんと面談。藤村大使も同席。

16:00 ハバナ歴史事務所にミチャエル・ゴンザレス遺産担当局長を表敬訪問。今回の公演の意義を高く評価してくださり、また、たった4人で公演を実行したことに驚かれた様子で「40人規模くらいかと思った!また来てください、いえ、来るべきです!」と真顔で云われて嬉しい限り!話しは世界遺産の建物を維持する難しさから、ゴンザレスさんがサザエさんのファンだという微笑ましいエピソードまで様々。
さて、キューバ滞在最後の晩餐は、私が提案して、原点に戻って、大野元参事官がキューバ到着初日にお連れくださったホテル ナシオナル・デ・クーパ内の野外レストラン「la barraca」。夕景のシーサイドを眺めながら、林さん、浅香さん、小田切さん、私で乾杯!お互いを労う。林さん、浅香さん、武藏さんはじめ大使館の皆さんには本当にお世話になりました!心から感謝申し上げます。

3日午前4:00 林さんの迎えで空港へ。林さんと再会を約して握手!
同 午前7:00 離陸。カナダのトロント経由で日本に向かう。
4日 17:00前 羽田到着。中野さんの出迎えを受け、3人で手締めをして解散。毎回思うことだが、飛行機が無事に着陸して、はじめてこの海外公演は成功だったと云えるのだ。

(次回 最終章総括に続く)

文化交流使 気まぐれ旅日記 その20

去る3月10日、内幸町イイノホールで、第18回文化庁文化交流使フォーラムが開催された。令和元年度の文化交流使活動報告会で、コロナ禍のため昨年よりの持ち越しである。私はオープニングアクトを依頼され「石橋」を踊り、交流使皆さんの一番最後に活動報告をした。この様子はライブ配信された。これで私の交流使の役目も一段落である。会場にはコロナ禍で未だ実施されていない令和2〜3年度の交流使の方々もお見えになっており、熱心に耳を傾けてくださった。その中に琉球舞踊家の志田真木さんも居られた。知己を得ている志田さんは私に、実施の折は色々お話を聞かせてくださいと不安気な眼差しでおっしゃった。私は快諾したが、志田さんもさぞ苦労されるだろうなと案じた・・・。

この気まぐれ旅日記は私的な日記だから、公なことは詳しくは書かないが、実施に当たり文化庁との折衝はかなり難航した。幸い私は、早稲田大学の児玉教授と松竹の中野さんの奇跡的な協力尽力を得られたので、歌舞伎を紹介する最低限のかたちを維持出来た!
文化交流使は様々な立場の方が居る。今回も、尺八奏者・和菓子職人・京料理人・IT折り紙作家・盆栽師と多種多峡にわたる。だから文化庁さんには、1,予算には人それぞれ、もう少しメリハリを付けてほしい。2,宮田元長官が「皆さんは日本からのよき行商人となってほしい」とおっしゃっるなら、武者修行のやうな、バックパッカーのやうな派遣だけは止めて頂きたい。とお願いしておきたい。

私は令和元年度の派遣だったので、当初は2020年の2月〜3月に実施する案もあったが、年を越すとまたなにがあるか分からないと私が判断し、2019年の11月〜12月の実施となった。これが幸いした!翌年の2月〜3月だったら実施は不可能だった。
世の中は一変した。

早稲田大学演劇博物館報117号の幕間随筆に、児玉先生が「コロナ禍の世界」と題する一文を寄せておられる。コロナ禍で二度と逢えない(かもしれない)世界中の人々との一期一会の交流が綴られており胸を打つ・・・。

さて、
日本ではコロナ禍に於いて、演劇(映画・音楽)などの文化は不要不急なものとして批判される昨今である。ここにサンフランシスコのシアター・オブ・ユーゲンCo-Directorの吉田恭子さんから頂いたお言葉を引用して、この旅日記の結びとしたい。
芸術文化は「不要不急」なのではなく、「急ぎと感じないからこそ、ますます重要である」

この度の文化交流使でお世話になった全ての皆様に心から感謝申し上げます!
See you next time ! 
(了)



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